バケモノの子:考察と感想 九太=三蔵法師、ではチコは?
@pico_chicoです。バケモノの子、見てきました。文句なしの傑作だと思います。 物語の源流にある『悟浄出世』についてと、チコという存在の謎、メルヴィル著・白鯨について、それから雑感。
以下、ネタバレあり〼
強さを求め、賢者を訪ねる九太一行と『西遊記』
宗師の言いつけで「強さとはなにか?」を問う旅に出る熊徹・九太一行。ほとんどの人はここで初めてベースに西遊記があることに気づくんじゃないかと思います。*1
順当に考えると豚のような姿をした百秋坊は実は沙悟浄がモチーフであり、猿のような出で立ちの多々良は猪八戒*2。そして熊徹は孫悟空そのものであり、鞘が赤く、抜かれることのない刀は如意棒のオマージュであることに思い当たり、さらに主人公の九太は何かというと、三蔵法師その人なのではないか?と、ボクは観ながら思っていたわけです。
が、参考文献としてエンドクレジットで挙がっていたのは『西遊記』ではなく、中島敦の『悟浄出世』。読んだことがないのですが、わかりやすく解説してくれているエントリがあったので紹介します。
沙悟浄の視点から書かれた『悟浄出世』
中島敦の小説『悟浄出世』と『悟浄歎異―沙門悟浄の手記―』は、『わが西遊記』を構成する連作短編だ。沙悟浄の目を通して、自我について思索した作品である。
なるほど……!と思いました。恥ずかしながら山月記くらいしか読んだことがないし、今度読んでみようと思います。
最強のバケモノ孫悟空は、猪八戒や沙悟浄にとって妖術や戦いの師匠でもある。ところが教え方が下手なのだ。変身の術の稽古でも、悟空は「だめだめ。てんで気持が凝らないんじゃないか、お前は。」「もういい。もういい。止めろ!」と怒鳴りつけてしまう。これは『バケモノの子』の熊徹のキャラクターそのものだ。
ところで、説明過多という批判もあるらしい本作*3。しかし、沙悟浄の目を通して語られる『悟浄出世』がベースにあり、百秋坊が九太について語っている、という体であることを考えると、批判するほどのことでもない気がします。
チコという存在の謎について:
帰宅してパンフレットをひと通り読んで一番疑問に思ったこと、それはこの映画のマスコット的存在、「チコ」とは何だったのか?ということです。
細田監督はインタビューでチコについて訊かれた際、あっさりとこう言い切っています。
マスコットキャラクターです。今回はアクション映画なので、どこかほっとできるパートナーが必要だと思って登場させたキャラになっています。
説明過多ぎみの映画の中で、最後まで語られない存在
チコは、蓮が「ネズミ?」というだけで、説明だらけのこの映画の中で、生態・生物学的分類が明かされない、謎のモフモフ系マスコットキャラクターである。 チコは一貫して、九太の味方であり、九太の安否を心配し、さらには危険を察知して止めようとする。生息地は九太の髪の中。人畜無害。マスコットの鑑である。
闘技場で九太が闇に飲まれかけ一郎彦に復讐しかけた時、九太を思いとどまらせたのは直接的にはヒロイン・楓に託されたブレスレット。でも、そのブレスレットのことを思い出させたのは、他でもないチコなのです。
バケモノたちとの絡みが一切なく、また8年の描写のブランクがあっても姿が変わらない、チコという存在の違和感のピークがこの場面だと思います。
チコについての考察は上に挙げたブログに詳しいです。
蓮が生き残るために必要だった、母からの愛情・良心が、脳内で結晶化したもの、それがチコだ。と、ぼくは思う。
母のミーム(愛情)が具象化したもの、というのはかなり正解に近い感じがしますね。
メルヴィル著・白鯨について:
劇中では描写がなかったのですが、小説版で九太が9才のとき、児童文学版の「白クジラ」を読んでいた、という描写があるとの噂を聞いたので、このあたりは小説版を読んでから改めて考えたいところですね。
「船長は自分の片足を奪われた鯨に復讐をしているんだけど、本当は自分自身と闘っているんじゃないかな?鯨は自分を映す鏡……。」
あとがきと雑感:
「王道」というのはクセモノで、評判の芳しくなかった新海誠監督作品の『星を追う子ども』も、この王道という名のハードルの高さを越えられなかったがゆえの評価だと思っています。(※個人的にはわりと好きです。)
で、”新冒険活劇”というキャッチコピーのもと、「子どもと大人が一緒に楽しめる夏のアニメーションの新しい王道」を目指したというこの作品は、軽々とそのハードルを越えてみせた感がある。すごいことだと思います。
見たい映画があってもほとんどレンタルで済ませてしまうボクですが、BDを買いたいと素直に思ったのは初めてかもしれない。それくらい期待以上だと思える作品だったし、観てよかった。
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